武道館を単なる武道の競技場としてでなく、武道形成の過程と呼応する諸芸術(建築、庭園、絵画、造形物、工芸等)と意図的に同居する施設づくりが望ましく、言い換えれば芸術文化と同居可能な唯一のスポーツ施設と考えた。

 伝統文化を対象とする建築ができるのならば、それ自身が持つ無数の経験、創意工夫、規律の発生、身体の開発、精神世界の透視から世界観の構築などが持つ吸引力、磁性が内包されていてほしい。多くの人の中に埋蔵されている記憶が、遺伝子が、鉄砂のごとく呼び寄せられ吸着する姿。伝統の継承と新機軸の展開に向けて、より強力な磁界を形成していければ良いと思う。

 ここではモチーフのひし形ユニットは武道の遺伝子、その表彰径のようなものだ。菱形に加圧された姿に、礼節、かまえ、重力をみて、点でしか自立しない平衡感覚に安定と瞬発力をみせる。臨機応変に結合、自在に連続変化を繰り返す菱形分子。それらはこの建築に内在するであろうか創の磁場、気の充填を待つ空間に吸引され、飛来する。武道伝承を要とする磁界形成の船として、時の流れを渡されようとする創意にすべては託されている。
1986-1989

東京武道館
東京都足立区綾瀬

敷地面積 14824.0u

延床面積 17604.0u
武道の修景−磁性の創生
top works martial arts hall