1996-1998

感覚ミュージアム
宮城県玉造郡岩出山町

敷地面積   6459.8u

延床面積   1981.7u
top works museums



 感覚ミュージアムは、意図的に仕立てた空間やアートで人と触れ合い、人の五感を通して身体的あるいは精神的にコミュニケーションを計り、様子の異なる感覚の発見や意識の変換が起こることが期待され、体験者が直接触れることのできる展示作品を主体にプログラムが用意されている。そこで体験者は、空間構成のシナリオと展示制作に参画したアーティストから多感なメッセージを受ける。身体的な衝動の誘発。集中心の高揚。スケール感の差異や誤認。若干の恐怖心や心地よさ,そして日常からの遊離や忘却。そこで、ほんのわずかでも新鮮な感覚の因子を持ち帰ってもらう事が期待される。

 楕円の広場は、川沿いの水平に広がる地形に求心力をもたせ、建物の稜線で空をかきとり、広場に張り詰める空気のレンズが五感の因子、風の音や香りや触感を包み込むコスモロジックな庭園として仕立ててみる。

 ミュージアムはダイアローグゾーンとモノローグゾーンに大別され、この2つの空間をつなぐトラバースゾーンと合わせ3つのブロックで構成されている。

 ダイアローグゾーンは体験者が展示装置と直に触れ合い、コミュニケーションを計れる場である。巨大な車輪を動かし壁に線画を描く「サークル・ン・サークル」。多様な素材でつくられ、遊びながら演奏することができる「創作楽器」。空中に吊られたリングを操作し、インターフェイスを通して音で空間を描く「スペースアンドサウンド(dqpb)」などがある。

 また、町民ミュージアムと創作活動の工房も併設されている。町民ミュージアムには約1000個の引出しが用意され、町民が一人一人登録して、思い思いの創作物やメッセージを入れておける。ローテックなホームページだが、コンピュータとは一味ちがう実在の情報メディアである。

 モノローグゾーンは、空間や展示装置が演出する幻想性が瞑想の世界へと誘おうとする。10万本の紙縒りが吊るされ、軽く細い無数の重なりが空間そのものを織り込んでいく「香りの森」。影の造形が四季の日差しを巡る映像として、白砂の庭に投影されるアースガーデン「Shadow Rays」、そこでは1年間の時間と影が凝縮して描かれている。

 水紋の揺らぎが壁や天井にランダムに反射するウォーターガーデン。そしてハートドームと呼ぶ双子形の空間のなかでは声が透明に重複して反響、不思議な音響を生む空間そのものが楽器である。従って、このゾーンは全て精神浴を目的とする瞑想空間なのである。

 この2つのゾーンをつなぐトラバースは闇と光、水をテーマとして組み立てている。往路の「闇の森」は手探りで進む通路で、触覚と聴覚がテーマである。体験者はのろのろと進み、次に視覚的に反転し、眩しく光る鏡の空間、エアートラバースに出る。鏡は万華鏡とは逆に、全て外側に開いた多面体の空間に貼っているので自分が映らない。帰路は広場を眺めながら霧のカスケードをゆっくりとリバースする。

 全体のシナリオに登場する各空間は、動線としてつながっているものの、遮音や遮光など目的別に分節されている。従って、この建築では空間のシークエンスに代わって、空間の変化と時間のシークエンスがより意図的にデザインされ組み立てられていることになる。

 そしてその効果と実感は、多くの体験者の感性を刺激し記憶されていくことを期待していきたい。

空間・アート・コミュニケーション