1990-1995

富山県立山博物館まんだら遊苑
富山県中新川群

敷地面積 20000u

延床面積 1401.9u
top works museums



 「まんだら遊苑」を構成する場や形状や施設,造形物は,立山の自然や地形と立山曼荼羅を軸とする歴史文化を五感をテーマに分析し,まんだら遊苑の構成要素を抽出,形象化したものである。立山曼荼羅とは大別して「地獄」「浄土」「開山伝説」「禅定案内」「布橋灌頂会」の五つの内容が描かれている。さらには立山信仰の背景となる歴史文化の源流として,古代インドの須弥山思想や仏教の世界観をテクストに用い,全体の骨格を組み立てている。.

 それ以外は,空間ゆえに作り出すことのできる質性,すなわち神秘性,誇張,空虚,錯覚,放心,あるいは求心性等を模索しながら,光や音,香などの装置を含め,相乗的な演出表現を試みている。ここでは一元的な解釈を求めるものではなく,むしろ創作空間の発するメッセージが体験者の多様な感性と呼応し,そこから様々な想像と解釈が生まれていくことを期待している。立山曼荼羅の地獄は,音や香による表現を創作の要因として,空間や造形を考えたもので,施設や装置の全てを絵画的な地獄のイメージから切離し,幾何学形態でかつ,現実の合理的な構造によって造形化したのは,現実すなわち地獄と言う至近距離にある概念を,そのまま立体絵画として表現してしまう方が適切と考えたからである。

 そして地獄では,鬼や餓鬼の具体的な姿は見せないが,全体を包み込む風景と種々の装置や素材の中に鬼たちの気配を潜ませ,むしろ来訪者の想像力を喚起する事を目的とした。天界という未知なる空間は,現実からの遮断を目的として施設全体を地下に埋設している。天界広場は,天界の構成を象徴しているもので,その形状は歴史的資料として図解されている須弥山を模型化したものである。この1つの宇宙模型と周囲の自然風景が共鳴,錯綜し,やがて原寸感覚を消し去ることで現実から離脱し,想念の世界へ導けるのではないかと考えた。天界窟は内包4.5mの立方体空間を7人のアーティストに与えたプロジェクトである。

 各々の空間は,作家の扱い方によって増幅あるいは変容し,そこに固有の意味が発生していく。また各窟をつなぐ迷路状の通路は,同質で繰返される空間の峡間に方位や時間,距離感が喪失していく事を意図している。そして天界,天至界では,静寂の中で徐々に心を鎮め,観想へと誘う世界の創出したもので,距離,素材感など,あらゆる事物を消し去り,中心に位置する楕円体での音の干渉,反響が特有の気圧を生むような迷想の世界へと誘い,非日常的な空間を体験させようとしている。総じて,知識と空間の合体で歴史的な精神世界を旅する施設であると言える。